ポスト・プログレッシブロックを巡る ~私的傑作選~

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1. はじめに

2008年、”ポスト・プログレッシブ”を標榜するレーベルKscopeの登場から、Steven Wilsonを筆頭とする『ポスト・プログレッシブロック』と言われる界隈がその勢力を拡大している事については、ご存知でしょうか。彼らはプログレッシブロックの”先進性”を体現する筆頭格として、TesseracTやKatatoniaといったヘヴィーメタル界隈まで巻き込んでおり、今や『ポスト・プログレッシブロック』は一つの音楽ジャンルとして認知され、更に大きなムーヴメントに発展しようとしています。

今回記事にした理由は、一つ目にこのジャンルそのものに関して、紹介された国内の情報サイトが見当たらなかったこと。もう一つは私の最も好きなバンドであるAnathemaがKscope所属のポスト・プログレッシブロックバンド代表格として、ここ日本で初来日ライブを行ったことを機に、私の音楽的好みを形成する一大要素である当ジャンルについて、一人でも多くの方に知って欲しいという思いがあるためです。

この記事では、私が個人的に名作だと思っているポスト・プログレのアルバムを紹介しているのですが、私の知識不足等によって見当違いな作品を紹介してしまっているかもしれません。もし至らない箇所があれば、生暖かい目でスルーしていただけると助かります。

2. ポスト・プログレッシブロックとは

Kscopeが提唱する音楽のあり方であり、1960,70年代のクラシカルなプログレッシブ・ロックを尊重しながら、最新のテクノロジー機器や、クラウトロック・トリップホップ・エレクトロニカ・ポストロックといった多彩な音楽を取り込むことで生まれた、21世紀以降の新たな時代に共鳴し得るプログレッシブ・ロックのことを指します。”ポスト・プログレッシブ”の理念に関するより詳細な内容については、Kscopeホームページにて確認することが出来ますので、気になる方は是非読んでみてくださいね。

個人的には、上の話を更に押し進めて、旧来のプログレッシブロックのスタイルをただ模倣するのではなく、”より先進的なものを生み出そう”というプログレッシブロック本来の理念に立ち返って生み出された音楽全般を指すのだと考えています。多彩であるが故に聴き手に広い解釈をもたらす音楽性なので、どんな音楽に”ポスト・プログレッシブ”を感じるかは人によって様々だと思います。これから紹介する作品群はあくまで私が”ポスト・プログレッシブ”な音楽だと感じたものになります。

3. 私的傑作選(※バンド名アルファベット順/随時更新)

Anathema『Weather Systems』(2012)
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リヴァプール出身のポスト・プログレッシブロックバンドの代表格。アートワークのように蒼く透き通った音像とエモーショナルな叫びが美しすぎる名盤。元ゴシックメタルバンドだけあって、多幸感の裏に潜むメランコリックなメロディーラインがより深い感動をもたらしてくれます。
Archive『Londinium』(1996)
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ロンドン出身のアヴァンギャルド・ロックバンド。この1stアルバム発表時(96年)から、ヒップホップやトリップホップ、エレクトロニカ、ポストロック等を取り入れた極めて先進的なロックサウンドを完成させています。
Blackfield『Blackfield II』(2007)
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Porcupine TreeのフロントマンSteven Wilsonと、イスラエル出身のシンガーAviv Geffenによるコラボレーション・プロジェクト。シンプルなアンサンブルによって奏でられる甘く切ないバラードが魅力的なプロジェクトですが、中でも本作はメロディーの美しさが特に際立った一枚。彼らの作品にはハズレが無いので興味を持たれた方は是非、他作品もチェックしてみてくださいね。
Bruce Soord with Jonas Renkse『Wisdom of Crowds』(2013)
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The Pineapple ThifとKatatoniaのフロントマンによるユニットのデビュー作。両バンドが所属するKscopeからのリリース。クラシカルなプログレッシブロックを基調としながら、憂い深いアコースティックサウンドとストリングスの旋律が荒涼とした美しさを演出する一枚。
Casualties of Cool『Casualties of Cool』(2014)
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プログレッシブメタル界の鬼才Devin Townsendと、カナダ出身のシンガーChé Aimee Dorvalによるプロジェクト。Devinのソロ作品における苛烈な音楽性とは真反対とも言える、ジャズやソウルミュージック等からの影響を感じさせるオーガニックな作風です。
Engineers『Three Fact Fader』(2009)
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UK出身のシューゲイザー/ アンビエント・ロックバンドによる2ndアルバム。本作のリリースからKscopeに移籍しています。NINからの影響を受けながら、シューゲイザーとプログレッシブロックのハイブリッドを地で行くバンドで、現在はエレクトロニカ/シューゲイザー界の雄であるUlrich Schnaussをメインメンバーに加え、更に未知なるエレクトロ・ロックを追求し続けています。
Frost*『Experiments In Mass Appeal』(2010)
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UKのキーボーディスト兼コンポーザーのJem Godfreyを中心に、プログレッシブロックバンドIQのAndy Edwards、John Jowitt、It BitesのJohn Mitchellが集ったスーパーバンドFrost*。本作ではヴォーカルがDeclan Burkeへと交代し、エレクトロミュージックとプログレッシブロック、オルタナティブ・ロックが調和したポップな作風で魅了してくれます。
The Gathering『Disclosure』(2012)
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オランダの6人組ゴシック/オルタナティブロックバンドの10作目。前作『The West Pole』でノルウェー人ヴォーカリストSilje Wergelandを迎えた新生The Gatheringですが、本作で完全にジャンルの壁を突き抜けた独自のメランコリック・ロックを確立しています。柔らかな電子音やムーディなホーンの音色、そしてアンニュイな美しさを湛えたヴォーカルによって彩られたメカニカルでアトモスフェリックな音像は、まさに未知の領域に踏み込んだポストプログレッシブロック。
Gazpacho『Demon』(2014)
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ノルウェー出身のプログレッシブロックバンドがKscopeよりリリースした8thアルバム。MarillionやPorcupine Treeのようなモダンプログを基調としながら、ピアノやヴァイオリン、バンジョー、マンドリン、アコーディオンなど多彩な楽器を要所に用い、より優美でトラディショナルな雰囲気を纏った楽曲を生み出す、シーンの中でも一際高いアート性を特徴とするバンドです。本作は”トラディショナル”な側面がより強く表出したコンセプト・アルバム。
Katatonia『Dethroned & Uncrowned』(2013)
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スウェーデンのゴシックメタルバンドによる、前作『Dead End Kings』のアコースティックアレンジバージョン。ヘヴィさが若干先行気味で、彼らの持ち味であるメランコリックなメロディーが覆い隠されてしまっていた前作から、メロディーを強調する形でアコースティックアレンジすることで本来の魅力を取り戻した画期的作品。前作はPeaceville Recordsからのリリースでしたが本作はKscopeからのリリースであり、レーベルの”色”がよく比較できる内容となっています。
Leafblade『The Kiss Of Spirit And Flesh』(2013)
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AnathemaのギタリストDaniel CavanaghとドラマーDaniel Cardosoが参加するポストプログレッシブ・ロックバンドによるKscopeリリース作。中東の風味を感じさせるアコースティックギターの音色を交え、複雑なアンサンブルを奏でながらポップで爽やかな聴き心地を実現した力作です。
Lunatic Soul『Walking on a Flashlight Beam』(2014)
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ポーランドのプログレッシブ・ロックバンドRiversideのフロントマン、Mariusz Dudaのソロプロジェクトによる2014年作。エレクトロニクスや打ち込みドラムといった冷ややかさを感じるファクターをアコースティカルなアンサンブルと調和させ、夜の海面に映る星の瞬きのような深みのある美しさが演出された傑作です。
Leprous『The Congregation』(2015)
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ノルウェーのプログレッシブロック/メタルバンドによる5thアルバム。ポスト「Coal」とも言うべき本作は、トライバルで精密なドラミングを機軸に組み上げられたドラマティックなアンサンブルが作品に深みと奥行きを持たせた前衛的な一品となっています。
Memories Of Machines『Warm Winter』(2011)
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Steven Wilsonも参加するユニットNo-ManのTim Bownessと、イタリア産ポスト・プログレッシブロックバンドNosoundのGiancarlo Erraによるコラボプロジェクト。両者の魅力が融合した儚いメロディーが秋の夜長に絶妙にマッチします。リリースが本作一枚だけと言うのが何とも悲しいです。復活求む。
The Mercury Tree『Countenance』(2014)
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米オレゴン州ポートランド出身のプログレッシブ・ロックバンドの4thアルバム。Jazz RockやPost Rock、Electronica、Ambientの要素を取り込んだアヴァンギャルドな音楽性でありながら、難解さよりもその知的で美しいメロディーが印象的な名作。
No-Man『Schoolyard Ghosts』(2008)
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Porcupine TreeのフロントマンSteven Wilsonと、シンガー兼マルチミュージシャンのTim Bownessによるユニット。本作は彼らの最も新しい作品ですが、退廃的な灰色のメロディーが柔らかなアコースティック/シンセサウンドに溶けていく実に耳心地の良い傑作。またいつか新作をリリースしてほしいですね。
Nosound『A Sense of Loss』(2009)
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マルチミュージシャンGiancarlo Erraを中心としたポスト・プログレッシブロックバンドによるKscopeからの3rdアルバム。切ない音色を生み続けるオーケストレーションと憂いを帯びたアコースティックサウンドを中心に作り出されるセピア色の音像は、アトモスフェリックな退廃美を最大限に湛えています。個人的にはKscopeリリースの全アルバム中でもかなり上位に位置する傑作。
The Pineapple Thief『Magnolia』(2014)
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Kscope設立初期から所属するベテランバンドによる2014年作。過去最高に切れ味鋭い演奏が生み出す、ダイナミックで美しいメロディーが印象的な傑作。プログレッシブロックよりもMuseやRadioheadといった面々が好きな方にアピールしそうな作風です。
Riverside『Love, Fear And The Time Machine』(2015)
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ポーランドのプログレッシブロックバンドの2015年作。アートワークの朧げな水平線の景色のように、アトモスフェリックな音像と美しいメロディーが最高に際立っています。社会風刺を多分に含んだ前作「Shrine of New Generation Slaves」のシリアスでヴィンテージな音像を受け継ぎつつも、初期作やEPで見せてきた浮遊感のあるメロウな音楽性、そしてフロントマンであるマリウスによるソロプロジェクトLunatic Soulで突き詰めてきたミニマルミュージックの要素をも盛り込みながら、極めて均整のとれた彼らだけのポスト・プログレッシブロックに昇華させた傑作です。
Steven Wilson『Hand. Cannot. Erase.』(2015)
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ご存知Porcupine Treeのフロントマンであり、Kscopeのオーナーでもある”ポスト・プログレッシブ”界隈の最重要人物によるソロ4作目。Porcupine Tree時代からの魅力でもあるシニカルな感性や、要所でカットインされるエッジの効いた演奏を残しながら、爽やかさを感じるポップネスはBlackfieldのようであり、アンビエントな音響空間と銀盤による深遠美はNo Manのようでもある、まさに彼のキャリアの集大成とも言える内容。リマスタリング作業などを通じて得た古典的なプログレッシブロックのエッセンスを誰よりも吸収し、現代における新たな音楽性と組み合わせて昇華・再構築した、“Post Progressive”の体現者にしか作り得ない見事な傑作。
Sylvan『Sceneries』(2013)
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ドイツのベテランプログレッシブ・ロックバンドの8作目。これまでの作品で見せてきたヘヴィな音像は影を潜めた代わりに、ピアノやストリングス、そして精密なバンドアンサンブルによって生み出される美しいメロディーに重点を置いた作品。繊細な美しさと壮大なスケール感を併せ持った傑作です。
TesseracT『Polaris』(2015)
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イギリスが誇る次世代プログレッシブ・メタルバンド、TesseracTの3作目。MeshuggahやPeripheryに次ぐDjent界隈の急先鋒として有名なバンドですが、Kscopeに移籍しての本作はそのような枠組みなど軽々と飛び越えんとする多彩なアンサンブルを披露。”次世代バンド”として相応しいポスト・プログレッシブな展開の妙と美しいアトモスフェリック・サウンドを生み出しています。
Ulver『Wars Of The Roses』(2011)
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ノルウェーが誇るアヴァンギャルド音楽集団による8作目で、Kscopeからのリリース。デジタルビートを含むエレクトロニクス、ストリングス、アンビエントシンセを大胆に導入し、深遠で美しい物語調の作風を作り上げています。ヴォーカルを中心に紡がれるメロディーはとてもキャッチーで、ダークで不穏な世界観であっても心地よく聴かせてしまう彼らの力量が最大限発揮された逸品。