Lykaia / Soen

Release : 2017/2/3

Genre : Progressive Rock / Metal

Samples : Youtube / Spotify

Tracklist :

  1. Sectarian
  2. Orison
  3. Lucidity
  4. Opal
  5. Jinn
  6. Sister  ★オススメ
  7. Stray
  8. Paragon
  9. Vitriol

元OpethのドラマーMartin Lopez率いるプログレッシブ・ロック/メタルバンド、Soenの3rdフルアルバム。

OpethとToolというワードは、彼らの音楽が語られる上で常に登場し続けてきました。Toolに関してはメンバーの多くがリスペクトしている事を認めていますし、また実際に彼らの音楽の血肉となっているという意味でも、切っても切り離せない要素だと思います。しかし本作をもって遂に、その呪縛から良い意味で解き放たれるかもしれません。つまり本作では両者の美点が、これまでのように「ちょっとした生焼け状態」ではなく完璧に火が通った状態でブレンドされ、完全に彼らのオリジナリティーとして昇華されているためです。デビュー作ではToolの影が、また前作ではOpethだけでなくKarnivoolやCoheed And Cambriaらオルタナティブ・プログメタルの影が色濃く差していましたが、本作ではそれらの要素を織り込みながら燻りを残すこと無く、あらゆる影を飲み込んで唯一無二に成長したバンドの勇姿を拝むことが出来ます。

本作のタイトルである「Lykaia」とは、古代ギリシャ時代に、アルカディア地方にそびえるリュカイオス山で開かれていたとされる祭りの事で、神話に倣い、人身御供として人肉が捧げられ、参加し人肉を食べた者は九年の間「狼」に変身するとされていました。そして狼になった者は九年の間人肉を喰わなければ、人間に戻ると伝えられていました(詳しくはこちらのリンク先でも説明されています)。つまりジャケットアートの狼は、変身してしまった人間なのかもしれませんね。本作ではこのLykaiaを題材として、宗教や儀式、及びそれに基づいた行動の背後にある様々な考えや概念に焦点を当て、私たちが住む世界の闇に覆われた部分を暴こうとしています。コンセプトに関する詳細はレーベルHPにも書かれてあるので、興味のある方や、英語に抵抗の無い方は是非読んでみてください。

そんな難しい事知るか!とでも言いたげな(まさに今の私の様な)リスナーでも大丈夫。頭を空っぽにして聴いても尚、単純に曲の素晴らしさだけで十分な感動をもたらしてくれます。本作は可能な限りアナログ機材のみを用いてレコーディングされたらしく、そのため過去作と比べて余分な尖りが消え、オーガニックな生命感と奥行きを感じさせる、美しさ極まるサウンドスケープが実現しています(ここまで良い音を聴かせるプログレッシブ・メタルは殆どないと思います)。サウンドの角が丸くなったといっても、演奏される音楽はむしろ過去作と比較にならないほど、ダイナミックな広がりとヘヴィーな力強さを兼ね備えています。ギターを中心に紡がれる、コンセプチュアルな呪術/儀式風メロディー、そして北欧由来の美しい叙情メロディーはより感情に訴えかけるものとなりました。またヴォーカルJoel Ekelöfの進化も特筆すべきところで、OpethのMikael ÅkerfeldtやKatatoniaのJonas Renkseにも負けず劣らずの、セクシーで哀愁のこもった歌声を披露してくれます。そしてベースは図太くメロディアスになり、どの楽曲でも屋台骨として主役級の存在感を放っています。全体を通して素晴らしい出来ですが、ミドルテンポのどっしりとしたアンサンブルに、美しく伸びやかな歌声が乗るオープナー#1. Sectarian、ギターとベースの穏やかな旋律を背に、哀愁だだ漏れのヴォーカルと美しいコーラスのカーテンが魅惑的なバラード#3. Lucidity、ギターとベースの巨大なユニゾンリフの応酬と、サビのバーストサウンドがこれ以上無い高揚感をもたらしてくれる#4. Opal、メロディアスなベースリフと、気怠さを滲ませ退廃美を演出するヴォーカルワークが魅力的であり、且つストリングスとパーカッションを交えた中東風のアウトロも雰囲気たっぷりな#5. Jinn、圧巻の重量感と共に刻むギター&ベースリフ、ドラミングの力強さと、揺蕩うように歌いあげるヴォーカルの対比が神秘的なサウンドの大波を生む#6. Sister、ウィスパーを交えたロートーンの歌が、ヴィンテージの風格漂う演奏に乗って渋みと癒しの波動を振りまく#8. Paragonが特にお気に入りです。

彼らの過去最高傑作としてだけでなく、プログレッシブ・メタル史にも残るレベルの凄まじい完成度を誇る作品。ヘヴィネスと美メロが極めて緻密に織り込まれた本作は、聴けば聴くほど際限なく興奮が押し寄せ、アルバムを通して聴き終わった際にはその余りの説得力に呆けてしまうこと請け合い。芸術的な完成度という言葉が相応しい逸品です。