The Assassination of Julius Caesar / Ulver

Release : 2017/4/7

Genre : Alternative / Experimental Rock

Samples : bandcamp / Spotify

Tracklist :

  1. Nemoralia
  2. Rolling Stone  ★オススメ
  3. So Falls the World
  4. Southern Gothic
  5. Angelus Novus
  6. Transverberation
  7. 1969
  8. Coming Home

ノルウェーの実験音楽集団、Ulverの最新作。

ブラックメタルバンドとして始まり、トリップホップ、エレクトロニカ、プログレッシブロック、サイケデリックロック(これはカバーアルバムでの姿ですが)、アンビエント、ドローン等を経由し、オーケストラとの本格的なコラボレーションまでこなしてきたUlver。ここまで振れ幅の大きなバンドを私は他に知りません。文字面だけ見るとまるで「節操が無い」バンドだと思われてしまうかもしれませんが、それは全くの間違い。表向きはどんな姿をとっていても、彼らには常に強固な信念ともいうべき「軸」が存在していました。彼らの音楽はいつでも叙情的で美しく、内向的で、そして悲劇的であり続けてきました。

オーケストラル・サウンドと電子音楽を融合した演奏会をマテリアル化した前々作『Messe I.X–VI.X』(2013)、ライブでの「フリーロック・パフォーマンス」を基に制作された『Atgclvlsscap』(2016)、これらはいずれもライブテイクを主材料とした即興性の強いアルバムでした。そして、Ulverはいつもリスナーの予想を(良い意味で)裏切るアルバムをリリースしてきたバンドです。「次はジャズアルバムでも出すのか?」という私の浅い勘繰りなど、まさに一笑に付すかのように、今度はガチガチに作り込まれたエレクトロニック・ロックアルバムを繰り出してきた。バンドの中心人物である鬼才Kristoffer Ryggの欲求は、エレクトロ・ミュージックとの融合を掘り下げる方に向いていたようです。

70~80年代のロック・カバーを収録した『Childhood’s End』(2012)で示唆されたように、彼らはあの時代を彩った音楽に対して、強い情景を抱いているに違いありません。本作はそれらの中からニューウェーブやシンセポップを取り出し、色濃く反映させた作品のようです。ニューウェーブと言えば今年、あのDepeche Modeの新作がリリースされましたが、並べて聴いてみると中々に興味深い。Ulver流のニューウェーブ/シンセポップは過去の焼き増しなどでは当然なく、自らが舗装してきた道の延長線上にしっかりと連なった、独創的でオルタナティブなロックミュージックとして昇華されています。

憶測ですが、本作はUlverにとっての「ポップ」を明確に定義した最初のアルバムではないかと思います。したがって当然の事ですが、非常にキャッチーで聴き易い。難解で、理解するのに月・年単位の時間がかかった前作や前々作とは大違いだ。では中身は?安っぽい商業音楽よろしくスカスカなのか?という心配も無用です。先に書いたように、プログレやオルタナティブロック、インダストリアル、アンビエント、エレクトロニカ、ジャズなどを巧みにミックスして、極めて精巧に構築された内容となっています。音楽性もこれまで通り、深淵で、叙情的な彼らだけの美意識が一貫して込められています。ポップである事と中身が薄い事は多くの場合不可分であると思われますが、実験音楽集団である彼らにそれを当てはめる事は無粋なようです。本作を「セルアウトだ」とのたまうリスナーは殆ど現れないと思います。

個人的に本作の評価を上げている要因がもう一つあって、それは大好きなRyggのヴォーカルを思う存分堪能出来るって点。最近はインスト志向の強いアルバムが多かったですから、ちょっと欲求不満だったのです。しかし、何度聴いてもため息が出る程に美しい歌声。KatatoniaのJonas Renkseらと並んで、北欧バンド・シーンが誇るべき偉大なヴォーカリストの一人だと思います。

ダウナーな酩酊感が支配する#1. Nemoraliaに始まり、メロディアスなシンセベースと女性ヴォーカルを交えた重厚なコーラスが高揚感を煽る#2. Rolling Stone、メランコリックなピアノの旋律と分厚いシンセ、リバーブを効かせた歌のレイヤーが北欧の幻想的な情景を作り出す#3. So Falls the World、壮麗なオーケストラルサウンドをバックに、エモーショナルなヴォーカルワークが映える#4. Southern Gothic。前半部の方が、後半部よりもストレートにキャッチーな楽曲が続きます。後半部になると、幻想的な空間系エフェクトや麗しいオーケストレーションが彩る、映画音楽的な壮大さが魅力的な#5. Angelus Novus、カラフルなシンセと麗しい歌の旋律が上品に舞う#6. Transverberation、シリアスなエレクトロニクスの瞬きと影を含んだ歌が哀愁を生む#7. 1969、妖艶なシンセサウンドを軸にサックスやムーディな歌のカットイン等を織り交ぜたアンビエントナンバー#8. Coming Homeと、より挑戦的でバラエティー豊かな楽曲へと広がっていきます。

ポップになってもUlverはやっぱりUlverだった。もはや何をしても許される感のある彼らだけど、今作も良い意味で振り切っていて痛快だ。私はこれ、傑作だと思います。これまでと比べても相当冒険的である事は確かなんだけど、キャッチーであるという点から彼らの作品群の入り口としても相応しいかもしれません。興味を持たれた方は、是非彼らの挑戦を受けて立ってみてください。