Somewhere In Between / Braxton Cook

Release : 2017/4/13

Genre : Jazz / Soul / R&B

Samples : bandcamp / Spotify

Tracklist :

  1. Millennial Music (Intro)
  2. You’re The One
  3. FJYD
  4. I Can’t
  5. Hymn (For Trayvon)
  6. Until
  7. Mathis’ Tune (Interlude)
  8. Somewhere In Between
  9. Run Away
  10. Pariah (feat. Samora Pinderhughes)  ★オススメ
  11. Never Thought
  12. The Gospel

米ワシントン出身で、現在はニューヨークを拠点に活動するアルトサックス・プレイヤー兼シンガー・ソングライター、Braxton Cookの最新作。

日本での知名度を想像するに彼の事を知らない読者の方も多いと思うので、まずは彼のプロフィールを軽く紹介したい。

<古典的なジャズに囲まれながら幼少時代を過ごし、5歳で初めてサックスに触れる。高校卒業後、学問における世界屈指の名門ジョージタウン大学に進学。その後、音楽をはじめとする芸術分野で世界に名を轟かす「ジュリアード音楽院」から直々に音楽の才能を買われて編入の誘いを受ける。ジュリアード在学中にChristian Scott(メジャーデビュー作をグラミー賞にノミネートさせた気鋭のジャズトランペッターにして、現代ジャズの先導者の一人として知られる)のバンドに抜擢され、ツアーメンバーの一人として世界を跨いだ。また近年台頭しつつあるジャズ/ソウルバンド、Butcher Brownとのコラボアルバムもリリース。更に、ジャズ界で最も権威ある「若手の登竜門」として知られる『セロニアス・モンク・インターナショナル・ジャズ・コンペティション2013』ではセミファイナリストに輝く・・・ >

書いてて目がしばしばしてきた。目眩がする程のすっごい経歴。弱冠26歳、音楽だけでなく学問に至るまで、攻守に渡って隙がない。エリートという形容すら、彼を前にすると陳腐に聞こえてしまいそうだ。また先述しましたが、彼はサックスプレイヤーだけでなく、シンガーソングライターとしての肩書きも持っています。つまり歌や作曲も当然のようにこなせるということ。彼の歌唱を本格的に聴けるアルバムは本作が初めてですが、当たり前を通り越してべらぼうに上手い。世界怖い。

そんなモンスター・ミュージシャンことCookが放つ新作は、「愛」をテーマとしている。しかし典型的なラブストーリーではなく、彼が傾ける「相反する愛情」が描かれたものだ。それは「音楽への愛」と「恋人への愛」であったり、「ジャズへの愛」と「R&Bへの愛」、そして「サックス演奏への愛」と「歌うことへの愛」であったりする。『Somewhere in Between』というタイトルが示すとおり、これはCookが相反する二つの愛情の間で揺れ動き、葛藤を通じて自らが歩むべき「道」を定めた、彼の音楽人生における金字塔的な作品と言えます。音楽から与えられる印象も、単純な幸福感や底抜けのポジティブさよりも、悲哀や苦痛を伴う経験を乗り越えて得られたかのような、芯の通った前向きさを感じさせます。

内容も非常に充実している。バンドリーダーであるCookのプレイするサックスが勿論主役なのですが、その巧みなフレージングには極上の耽美性が宿っています。それが12曲・約43分に渡って堪能出来るというのだから、それだけで満点をあげたい気分だ。

音数を絞ったタイトなアンサンブルをバックに、蕩ける様なサックスとギターのフレーズが淡い残像を残していく。幻想的で、儚げな美しさが極まった傑作です。ソウルやR&B、ポップスの要素も含まれていて、ジャズの敷居の高さを感じさせない人懐っこい作風。本作で初披露となるCookの歌も、ビターな大人っぽさとミルクティーのような甘さがほどよく溶け合って、極上のムードを創り出しています。

本作の個人的なハイライトは、哀愁ダダ漏れのダイナミックでベタベタなサックスプレイが堪能できる#5. Hymn (For Trayvon)、ロバート・グラスパーよろしくソウルフルなブラックミュージックの残照を感じさせる#8. Somewhere In Between、落涙を想起させるエモーショナルなプレイを繰り出すピアニストSamora Pinderhughesをフィーチャリングし、そよ風のように吹き抜けるサックスと魅惑のデュエットを披露する#10. Pariahの3曲。後半になればなるほど味のある楽曲が増えていきます。また、2年前にリリースされたButcher Brownとのコラボアルバムでも収録された#3. FJYDや#5. Hymn (For Trayvon)については本作で改めて再録されたようで、EPでのもっさり感が解消されたスマートな姿に生まれ変わっている点にも注目したい。

技巧的なモダンジャズとしてのスタイルを崩さず、且つ時代の潮流を捉えてポップさと飾り過ぎないオシャレさまで兼ね備えた、フレッシュな傑作です。全編通じてサックスとギターのフレージングがとにかく巧みなのが印象的で、非常に「歌心のある」内容。どこを切り取っても珠玉のメロディーが詰まっています。ジャズに詳しくない私のようなリスナーでも純粋に・素朴な気持ちで楽しむ事が出来るはずです。

最近になってようやく私にも感じられてきたのだけど、どうやら、今のジャズシーンの若手市場はとても面白いことになっているらしい。本作もまた、その「面白さ」の渦中にある一枚です。