Somersault / Beach Fossils

Release : 2017/6/2

Genre : Indie Rock / Pop

Samples : bandcamp

Tracklist :

  1. This Year
  2. Tangerine  ★オススメ
  3. Saint Ivy
  4. May 1st
  5. Rise
  6. Sugar
  7. Closer Everywhere
  8. Social Jetlag
  9. Down The Line
  10. Be Nothing
  11. That’s All For Now

米ニューヨック・ブルックリン出身のインディー・ロックバンド、Beach Fossilsの4年ぶりとなる3作目。バンドの中心人物Dustin Payseurが夫婦でオーナーを務める新興レーベルBayonet Recordsからのリリース。

アルバムタイトルのSomersaultには「宙返りする」という意味があるけれど、なるほど本作のアンサンブルはまるで宙返りが出来そうなほど、ドリームポップ顔負けの浮遊感と開放感に満ちています。ヴァイオリンやチェロなどのストリングス、ピアノ、チェンバロ、フルート、サックスといった豪華配役を揃え、壮麗さとローファイな素朴感を兼ね備えた新次元のポップ・ミュージックへの昇華。例えば昨年リリースされたAndy Shaufの『The Party』にも通ずるような、素朴感と多幸感、ノスタルジーな情景がたっぷり詰め込まれています。何より、そのサウンドからは誰もがポジティブなエネルギーを感じ取ることでしょう。

一方で、本作に込められたメッセージは人生におけるネガティブな部分に根ざしています。誰もが忙しなく働き、尚且つアメリカではいろいろな意味で異次元の大統領が誕生した世の中で、バンドの中心人物であり創始者Dustin Payseurはうつ病との戦いに苛まれていました。最初は誰にも会わず、引きこもっていられる時間をただ貪る日々。しかし、ある日マネージャーから実家に招かれ、そこで気の置けない仲間達と数ヶ月の間、のんびりとした”心の休養”をした事が彼にとってのターニングポイントになりました。それはとても美しく尊い体験で、その時の思い出が基盤になって本作は制作されています。Somersaultとは地面と足が離れた状態であるけれど、そんな不安定で切り離されたような状態であっても、長い目で見ればそれは”あなた”にとって必要で重要な時間である事を、本作は伝えようとしています。私もかつてうつ病に苦しんだことがあるから、彼の伝えようとしている事はとても共感できる。クライマックスナンバーの#11. That’s All For Nowで語られる芯の強い言葉が、深く心に染み込みました。 ー 君はハイウェイ・スターだった 自分の炎で燃え尽きた 先に進もう 進み続けよう 今はそれしか出来ない 僕たちが忘れ去った夜を みんなは欲しがる でも僕は要らない ー 

曲についてはどれも素晴らしいものばかりですが、#2. Tangerineが出色の出来。アコースティックギターの爽やかな音色にメロディアスなベースサウンドが脇を固め、サビのキャッチーな歌メロにストリングスがしっとりと飾る、至福のポップナンバーに仕上がっています。なおコーラスにはSlowdiveの紅一点Rachel Goswellがゲスト参加。他にも、音数を抑えたバンドアンサンブルにストリングスを交え、至極のメロディーセンスによって極上のローファイ・ポップチューンへと仕上げた#1. This Year、全編を覆うストリングスが生む壮麗なダイナミズムが魅力的な#3. Saint Ivy、哀愁のムード感たっぷりのコーラスワークがとても美しい#4. May 1stや、チェンバロの高貴な旋律を纏って零れ落ちていくような儚い歌唱が木霊する#7. Closer Everywhere、メロウな歌にフォーカスを当てしっとりと纏めた前半部から、多幸感をまき散らしながら疾駆する後半部への移行がカタルシスを誘う#10. Be Nothing等は特に気に入っています。

全編に優しさが満ち満ちた暖かい作品です。そして音楽としての魅力も見違えるようにレベルアップしていて、文句の付け所が全くありません。今年屈指のインディーロック/ポップアルバムとして名乗りを上げるに相応しい傑作です。