The Optimist / Anathema

Release : 2017/6/9

Genre : Alternative / Post Progressive Rock

Samples : Youtube / Spotify

Tracklist :

  1. 32.63N 117.14W
  2. Leaving It Behind
  3. Endless Ways
  4. The Optimist  ★オススメ
  5. San Francisco
  6. Springfield
  7. Ghosts
  8. Can’t Let Go
  9. Close Your Eyes
  10. Wildfires
  11. Back to the Start

英リバプール出身のオルタナティブ/ポスト・プログレッシブロックバンド、Anathemaの11枚目となる最新作。Kscopeからのリリース。

1993年にリリースされた1stフル『Serenades』から、Anathemaはロックミュージックの求道者で有り続けてきました。ゴシックメタルバンドのパイオニアとしてスタートした彼らは、オルタナティブロックへ足を掛けた4th『Alternative 4』(1998)を最後にPeaceville Recordsを抜けます。その後、籍を移したMusic for Nationsからは5th『Judgement』(1999)~7th『A Natural Disaster』(2003)をリリースし、これまでの歩みをベースにPink FloydやMarillionからの影響を顕著にした美しく思索的なプログレ風オルタナティブロックや、シンセを大胆に導入した独自路線の道を拓きました。7thアルバムのリリース後、まもなくMusic for Nationsがレコード事業を閉じた事でしばらく苦難の道が続くものの、Steven Wilson率いるKscopeと無事契約を果たし、以後継続的な新作リリースを続けながら現在に至ります。音楽性は更なる広がりを見せ、オーケストラサウンドやエレクトロ・ミュージックを大胆に採り入れながら、ますます美しくダイナミックなサウンドスケープを創り出すようになりました。そして今やレーベルが掲げる”Post Progressive”サウンドを体現する筆頭格として君臨しています。またセールス的にもヨーロッパを中心に徐々にその存在感を強めており、デビューから20年以上経った今、遅咲きながら全盛を迎えつつあるバンドです。ちなみに私にとって現在、最大のお気に入りバンドであり、2年前の初来日ライブにも参加しました。その時の歓喜と熱狂は一生忘れられないでしょう。

さて、彼らの求道者としての歴史を軽く説明しましたが、その精神が拓いた広大なフロンティアがこの新作『The Optimist』にも広がっています。6th『A Fine Day to Exit』(2001)の続編に位置づけられ、バンド初のコンセプトアルバムとして掲げられた本作。前作から引き継いだ主人公はThe Optimist = 楽観主義者と名付けられ、「過去の亡霊」とやらに取り付かれた主人公による、サンディエゴからサンフランシスコ、スプリングフィールドまで至る、アメリカ西海岸を舞台とした逃避行が描かれます。オープニングを飾る「32.63N 117.14W」はまさにこの旅路のスタート地点シルバー・ストランド・ステート・ビーチを表していて、『A Fine Day to Exit』のジャケットを飾ったあの波打ち際から旅を開始する主人公が確認できます。ただネット上のインタビュー記事などを参照するに、本作に明確なストーリーは存在せず、細かな解釈はリスナーに任せられているようです。本作には所謂歌詞カードが存在せず、主人公の心情を表したメモ書き程度しか残されていませんが、それもそういった意図によるものなのかもしれません。なおアルバムアートワークは前編の『A Fine Day to Exit』に引き続きトラビス・スミスによるもの。写真と書き付けられた手書きの文章、という全体的なデザインも前編から引き継いでいます。

オープニングSEに続く実質的な開幕曲#2. Leaving It Behindは、Anathema印のクレッシェンドでアッパーなキラーチューン。少しクランチ気味の音色で小気味よく吐き出される轟音と、泡のようにプチプチ弾けるキック音が融け合った爽快なナンバーです。この曲に限らず全体的な傾向ですが、エレクトロアレンジがバンドアンサンブルにとてもマッチしています。エレクトロミュージックと親和性の高いダークな作風であることや、前作を通じて使い方に習熟したというのが理由でしょうね。続く#3. Endless Waysは女性ヴォーカリストLee Douglasがマイクを取り、こみ上げるようなエモーションを表現した麗しいミドルナンバー。”Untouchable, Part 2”、”The Lost Song Part 2”の系譜ですね。この頭2曲の流れはもうお馴染みになりつつあるのかな。だけど個人的には、次の表題曲#4. The Optimistこそ至高だと主張したい。先の2曲に比べると一見地味に映るんだけど、よく聴くとメロディーにMusic for Nations時代を彷彿とさせる、独特の哀愁が込もっていて最高だから。中期Anathemaが好きなファンには堪らないミドルナンバーです。

そんなダウナーで淡々とした#4. から、ピアノとエレクトロニクスが弾ける#5. San Franciscoのアップリフトなサウンドへの流れがまたニクい。こんなの絶対ワクワクしちゃうじゃん・・・。そしていよいよ先行公開曲#6. Springfieldに続きます。

この曲、初めて試聴した時はイマイチピンと来なかったんですよね。最近の彼らにしてはちょっと地味かな、とか思ってた。でもアルバムの流れで聴くと凄く輝いていて、印象が180度変わった曲でもあります。Springfieldという旅の終着地点で、長旅を経た後の疲労感や、逃避行の内に感じた虚無感、自らの過去に対する後悔や憎しみ(個人的にはこのような感情が「過去の亡霊」だと解釈しました)、そして自分が本当に心から望んでいることは何か?という苦悩、詰まりに詰まった負の感情が脳内で弾けていく様が、空間を侵すモノトーンの轟音によって表現されています。

続く#7. Ghostsは艶っぽく揺蕩うLee Douglasの歌声を、哀愁たっぷりなピアノとオーケストラサウンドが装飾する、美しく透明度の高いアンビエント・バラードナンバー。そして#8. Can’t Let Goは本作でも異色の楽曲で、曲調は往年の”Judgement”のような徹底した反復とクレッシェンドなのですが、極めてポップに仕上がっています。シンプルなドラムパターンに、クリーントーンを重ねた美しいギターサウンド、木霊するコーラスを伴ってロマンチックな歌メロを奏でるヴォーカルが新鮮で、ポップソングとしても通用しそうな仕上がり。#10. Close Your EyesではLee Douglasの歌声をフィーチャーし、サックスも織り交ぜたジャズ風のアンサンブルを披露してくれて、これまた新しい。

メロウなピアノの旋律に乗って亡霊のような歌が木霊する序盤から、徐々に輪郭を取り戻し爆発的なアンサンブルでクライマックスに繋げる#10. Wildfiresの後は、トータル11分弱のラストナンバー#11. Back to the Start。冒頭では再び波打ち際の音(もしかしたらスプリングフィールドからサンディエゴに戻ってきたのだろうか)。アコースティックギターとピアノの柔らかな音色に始まり、最後は分厚いコーラスとオーケストラに囲まれながら大団円を迎えます。そして曲が終わってちょっとした空白を挟むと、ラスト1分くらいにシークレットトラックが開始。そこで聴こえてくるのは、赤ん坊とそれを楽しそうにあやす男性の声。これは一体何を示唆しているのか・・・ここはリスナーの解釈に委ねられそうですが、ハッピーエンド大好きマンたる私としては、主人公のその後を彩る幸せな人生、的な示唆だと信じたい。

あとKscopeに所属してから毎度のことだけど、サウンドのクオリティーも相変わらずもの凄い。モグワイ等の作品を手がけてきた名手トニー・ドゥーガンの指揮の下、ライブ形式でレコーディングがなされたそうだ。それによって非常にエネルギッシュで、音響的な広がりを感じるサウンドに仕上がっています。これが本作の映画的で影のある作風にぴったりとハマる。本作にトニー・ドゥーガンをプロデューサーとしてあてたのは大成功と言えるでしょう。

身の回りではやや賛否両論気味なのですが、個人的には彼らの全ディスコグラフィー中でもトップクラスに好みな大傑作でした。実際に凄まじいクオリティーなんだけど、ダークな作風であったり広がりのあるアンビエント風のサウンドテクスチャが分かりやすさを阻害してはいるよね(それでも昔の彼らに比べたら相当キャッチーだけど)。前2作ほどの直球なメロディーは控えめですが、『Alternative 4』~『Hindsight』くらいまでの作品が(も)好き!ってファンには堪らないと思います。Anathemaって元々ダークであったりメランコリックな曲を作るバンドだったな、と原点に立ち戻って再認識させてくれる作品でもありますね。あと忘れてはいけないのが来日の話ですが、もちろん本作を引っさげて来日して欲しい。前回の日本公演は彼ら自身にとっても好感触だったそうなので、可能性は大いにあるはず!だよね?