To the Bone / Steven Wilson

Release : 2017/8/18

Genre : Alternative / Progressive Rock

Samples : Youtube

Tracklist :

  1. To the Bone
  2. Nowhere Now
  3. Pariah (feat. Ninet Tayeb)
  4. The Same Asylum As Before
  5. Refuge  ★オススメ
  6. Permanating
  7. Blank Tapes (feat. Ninet Tayeb)
  8. People Who Eat Darkness
  9. Song of I (feat. Sophie Hunger)
  10. Detonation
  11. Song of Unborn

モダン・プログレッシブロック界のパイオニア、Steven Wilsonによる5作目。海外リリースは移籍先のCaroline Internationalから、日本はHostessからのリリース。

既存のスタイルを維持しながらアップデートし続けようとするミュージシャンと、常に変化を模索し新要素を貪欲に採用するミュージシャン、どちらの方が優れているとは言えないけれど、Steven Wilsonは後者側に属する人物だと思う。Porcupine Treeというモダン・プログレッシブロックの決定版とも言えるバンドに属しながら、よりシンプルでキャッチーなロックを志向したBlackfieldや、No-Manのようなアートポップのサイドプロジェクトを立ち上げたりと以前から様々な分野に手を伸ばしていたし、またPorcupine Tree自身の楽曲もプログレだけでなく、90年代オルタナロックやHR/HM、フォークなど様々なジャンルが混在していました。ソロ活動においても前作『Hand. Cannot. Erase.』(2015)では電子音楽やポップスをかなり大胆にミックスしてジャンルレス化していましたし、更にその方針を推し進めた本作を聴けば、彼をプログレッシブ・ロックという枠に収めることすら不自然に思えてしまうほど。

『To the Bone』には10分を超える曲が一つもなく、爽やかでタイトな楽曲が多いです。だから、一度目の体験は割とあっさりとしたものかもしれません。けれど何度も聴いているうちに、本作が如何に濃密で精巧に作られた作品かを直感すると思います。Steven Wilsonの音楽的経験やインスピレーションが、前作以上に隙間なくそして芸術的に収められているからです。本作ではリバーブをこれまで以上に深く効かせ、フレーズの間隔を広めに取った事で、親しみやすさが芸術性を殺さず両立しています。Steven Wilson節とも言うべきシニカルでメランコリックなメロディーセンスやスリリングなギタープレイはそのままに、大幅なポップ化に成功している点が本作の革命的なポイント。制作にあたり80年代のアーティスティックなポップ・ソングに創造性を刺激されたとの事ですが、その結果まさに現代を代表すべきプログレッシブ・ポップアルバムに仕上がっています。どの楽曲も極めて完成度が高いのですが、個人的に特に気に入っているのは#5. Refuge#6. Permanating#10. Detonation#11. Song of Unborn。#5は前作の”Perfect Life”に通ずるようなメロディーが印象的な、耽美でしなやかなキラーチューン。#6は新機軸とも言えるダンサブルなロックソングで、#10、#11ではクライマックスにふさわしいドラマティックな展開が待ち受けています。なお前作にもゲスト参加したイスラエルの女性シンガーNinet Tayebや、スイス人シンガーSophie Hungerら女性ヴォーカリストの貢献度も大きく、麗しい歌声でキャッチーな本作に彩りを加えてくれています。

ポップな楽曲に対して、歌詞はとても仄暗くシリアス。今の情報化社会や混乱する政治情勢に打ちひしがれる絶望感や諦念がどの曲にも立ち込めています。と同時に、そんな状況に恐れず立ち向かうことが救いを得るための第一歩だと暗に伝えている気がします。この混迷の時代に彼が発信したいことが、醜い現実を直視し、乗り越えるための勇気だとしたら、本作のようにドラマティックで内省的な力強さ、そして親しみやすさを湛えた作風はおあつらえ向きかもしれません。

前作を更に先鋭化したような内容で、個人的には大いに満足しました。本作のリリースまでは前作こそが彼の最高傑作だと思っていたけど、本作も負けず劣らず素晴らしい。レーベル移籍も納得の大きな変化があった訳だけど、多くのファンが受け入れられる内容だと思います。セールス的にも大成功しているようで、これを機に日本でもより多くの音楽ファンに知られるといいですね(そしてゆくゆくは来日を…)。過去最高に取っ付き易い本作、オルタナティブロックやブリティッシュポップのファンにも是非トライしてみて欲しい傑作です。