The Slow Rust of Forgotten Machinery / The Tangent

Release : 2017/7/21

Genre : Progressive Rock

Samples : Youtube

Tracklist :

  1. Two Rope Swings
  2. Doctor Livingstone (I Presume)
  3. Slow Rust
  4. The Sad Story of Lead and Astatine  ★オススメ
  5. A Few Steps Down the Wrong Road
  6. Basildonxit

Parallel or 90 DegreesのKey奏者Andy Tillison率いる、英国産プログレッシブ・ロックバンドThe Tangentによる最新作。

プログレを聴き始めて間もない頃、彼らの1stアルバム『The Music That Died Alone』(2003)を聴いたときの衝撃は今でも忘れられない程大きなものでした。The Flower Kingsにも匹敵する極上のシンフォサウンドを振り撒きながら、ジャズ/フュージョン由来の引き締まったアンサンブルでさらりと纏めてみせる、圧巻のソングライティングはまさに未知との遭遇でした。心の中でずっと待ち望んでいたものがそこに具現化したかのような傑作との出会いは、その後Frost*の1stを手にする時まで更新されることはありませんでした。

The TangentはAndy Tillisonを中心に、The Flower Kingsや元Kaipaのメンバー、Van Der Graaf Generatorのメンバーを加えた所謂スーパー・グループとしてデビューしました。しかしメンバーチェンジも激しく、1stからずっと継続して在籍しているのはAndyだけという始末。しかし入れ替わりの激しいメンバー達はどれも歴戦の猛者揃いで、安定したクオリティーの作品をコンスタントに発表しています。本作ではJonas Reingold (Karmakanic, Kaipa, Agents of Mercy)とTheo Travis (Steven Wilson, Gong, No-Man)の名前が目立ちますね。ギタリストLuke Machin (Maschine)も欠かせない存在です。また今作にはクレジットされていませんが、前作ではMats/Morgan BandのMorgan Agrenがドラムで参加しておりました(今作ではAndyがドラムを兼任しているようです)。

ところで先に1stアルバムの内容に衝撃を受けたと書きましたが、以来それを超える感動を得たことは無かったんですよね。それだけ1stの出来はセンセーショナル過ぎたし、そして私自身の感性が未熟だったせいでもありました。そんな中、1stアルバムの続編と銘打たれた前作『A Spark in the Aether』(2015)は、当の1stを超える程の出来ではなかったものの極めて高品質な作品で、このバンドへの興味を引き戻すきっかけとなりました。

そして満を持して発表された新作『The Slow Rust of Forgotten Machinery』。前作より更にクオリティーを上げ、個人的には1stに匹敵する作品になっていると思います。これは素晴しい傑作ですよ。銀盤を通じてサウンド全体を指揮するAndyの手腕は相変わらず凄まじいの一言ですが、シンセを喰う勢いで弾きまくるギターやジャズ/フュージョンとを自在に行き来するドラム、時にギター顔負けのメロディアスなフレーズをはじき出すベースなど、全体のアンサンブルが更に先鋭化され、単なるシンフォプログの枠だけに収まらないレベルに至っています。女性ヴォーカリストによるコーラスなど新要素もありますが、個人的には推しメンバーであるギタリストLuke Machinの活躍が嬉しい。この人のプレイって良い意味でプログレっぽくなくて、The Tangentの面白さに一役も二役も買っていると思うんですよね。多様性を生み出す源泉的な存在になっていると思います。そんな彼は初参加の『Comm』(2011)から前作、そして今作に至るまでどんどん躍動具合が増していて、それが嬉しい。Lukeの参加作品は例外なく気に入っています。

また本作はRoger Watersの新作にもインスピレーションを受け、難民問題や戦争、孤立主義を含む政治/世界情勢、更に進んで私達個人のパーソナリティにまで及ぶ問題提起を含んでいるとのこと。ChumbawambaのBoff Whalleyをゲストヴォーカルとして招いている事からも、その問題意識、気迫を感じ取ることができます。

個人的なハイライトは4曲目のThe Sad Story of Lead and Astatine。本作の中で最もジャズ要素が強い楽曲で、シンフォプログの幻想的な美しさとタイトで渋みのあるアンサンブルが完全に調和した奇跡のような楽曲。プログレッシブ・ロックという枠組みすら超越した別格のナンバーに仕上がっています。次に印象的だったのは5曲目のA Few Steps Down the Wrong Roadで、組曲「惑星」より「ジュピター」のメロディーが引用されています。調べて知ったのですが、ジュピターってイギリスでは愛国歌・讃美歌として歌われているんですね。世界情勢にも言及した本作のことだから非常に重い意味合いで引用されているんだろうな…と想像したり。そしてある意味最も衝撃的だったのは、ボーナストラックとして収録される6曲目のBasildonxit。何と打ち込みを大胆に導入した、エレクトロ風味のロックナンバー!Andyの鬼才っぷりが確認できる異色の楽曲ですが、比較的モダンな本作に意外な程マッチしていて、アルバムの流れを壊しません。そんなわけで本作を購入する際は是非ボーナストラックが収録されたものをどうぞ。

今年のプログレッシブ・ロックアルバムの中でもトップクラスになりうる傑作だと思います。プログレ好きな方であれば本作を見逃す手は無いですよ。またそうでなくとも職人芸的な演奏にじっくり浸りたい方は是非とも。昨今のファストフード化した音楽業界において、こういうバンドが生きている事はそれ自体が尊い事ですね。