Prédateurs / Les Discrets

Release : 2017/4/21

Genre : Post Black Metal / Post Rock / Ambient

Samples : bandcamp

Tracklist :

  1. Prédateurs
  2. Virée Nocturne
  3. Les Amis De Minuit
  4. Vanishing Beauties
  5. Fleur Des Murailles
  6. Le Reproche  ★オススメ
  7. Les Jours D’Or
  8. Rue Octavio Mey
  9. The Scent Of Spring (Moonraker)
  10. Lyon – Paris 7h34

フランス産ポスト・ブラックメタルバンド、Les Discretsの5年振りとなる3rdフル。Alcest等が所属するProphecy Productionsからのリリース。

「フランス」と聞いてあなたはどんな情景を思い浮かべるでしょうか。荘厳な歴史的建築物や気品のある芸術作品、華々しいファッションモデル、美しい料理…。フランスを訪れた事の無い私はそんな典型的なステレオタイプを通してでしか、かの国をイメージ出来ません。そんな洗練された華々しいイメージの裏には幻想的な自然風景、退廃的な都市の雰囲気、物憂げでアンニュイな人間心理も潜んでいますが、それもまた単なるステレオタイプを超えるものではありません。しかし、後者は特にフランス映画を見ない私に対して、AlcestLes DiscretsAmesoeursといったフランス産ポスト・ブラックメタルバンドが与えてくれた貴重なイメージ群でもあります。フレンチポップの軽やかで洒落た雰囲気に隠れがちですが、このような側面からフランスを描いてくれるバンドもまた存在しているのです。

Les Discretsは、音楽家兼イラストレーターであるFursy Teyssierを中心に2003年に結成されたバンド。Amesoeursの元メンバーでAlcestのライブミュージシャンを務めた彼は、先述した3バンド以外に、Agalloch、Lantlôs、最近だとTrees of Eternityなど数々のアルバムカバーアートを手掛けています。また一方でアニメ映画の制作監督も務めたりと、芸術家として多彩な能力を発揮してきました。

そんなビジュアルアーティストでもあるFursy率いるLes Discretsは、所謂「ポスト・ブラックメタル」の範疇で語られてきたバンド。しかしその作風は、音楽でこの世ならざるユートピアを表現しようとする「創始者」Alcestとは一線を画し、ヒトの生命や愛、そしてそれを取り巻く環境の美しさを出来るだけ写実的に描き出そうとする、まるでFursy Teyssie自身が監督を務める現地映画を見ているかのような、リアリティとドラマ性を感じさせるもの。音楽性は1stアルバムこそポスト・ブラックメタルの枠内に収まっていたけれど、2ndで半分ほど脱皮を果たし、本作、3rdアルバムに至ってはダークアンビエントやフォーク、トリップホップなどの要素を大胆に採り入れて、いよいよジャンルの壁を完全に壊しにかかっています。

本作は、音楽によって想起されるイメージが経時的変化によって豊かな「シーン」を生み出し、美しいメロディーによって巨大な「ドラマ性」が付与された映画的な作品。また「映画」というモノが先にあって作られるサウンドトラックとは違って、音楽がイメージを映画化する、繊細な音楽性に反して非常にパワフルな作品です。優れた音楽作品で映画的なものは沢山あるだろうけれど、ポスト・ブラックメタルを出自としたものは本作が初めてではないでしょうか。

音楽的に大きな変化があった本作ですが、前作からの5年間で何があったのでしょう?前作までベーシストとして在籍していたAlcestの主導者Neigeが2013年には脱退し、Fursy Teyssierと女性ヴォーカリストAudrey Hadornの2名となったLes Discrets。メンバーの減少に比例して、音楽も極端なミニマル化が進んでいます(変化の方向性としては、Ulverに近いかもしれません)。映像的なイントロナンバー#1. Prédateurs(「捕食者」を意味するそうな)を抜けた#2. Virée Nocturneから、変化は顕著に感じられます。

一方で姿形は変わったにも関わらず、その表現志向は変わっていないことにも気付くと思います。物憂げで美しいメロディーは、音数が少なくなった事で更に際立つようになりました。#3. Les Amis De Minuitは本作でもロック色の強いナンバーで、男女2名の美しいコーラスワークとアコギの幽玄なフレーズ、そして終盤のスポークンワードのパートが印象的なキラーチューン。続く#4. Vanishing Beautiesは中盤のギターアルペジオが必聴モノ。まるで透き通った氷柱から滴り落ちる雫の様な、繊細で美しいメロディーラインは是非堪能して欲しいです。オーロラのようなコーラスワークがひたすら綺麗な#6. Le Reprocheは中盤のハイライトに相応しいアンビエント・ロックナンバー。哀愁のこもったギターアルペジオと幻想的なアンビエントシンセに包まれて、ダウントーンのヴォーカルが熱っぽく囁く#8. Rue Octavio Meyは、本作で最も色っぽさを感じる楽曲です。霧がかった空間を力強く木霊するシンセとギターによって、胸の締めつけられるような情念をみるみる膨らませてくれる#9. The Scent Of Spring (Moonraker)も素晴らしい。

これからの季節に外せない退廃的で美しい旋律が詰まった一枚。個人的には前作と甲乙つけがたい傑作に仕上がっていると思いますが、彼らにメタル的な激しさ、重さを求める方には合わないかもしれません。一方で、ポストロックやアンビエント、トリップホップ等がお好みの方にとっては非常にとっつき易い作品ですので、これを機に是非彼らの創り出す世界観に触れてみてください。