Melancholia Hymns / Arcane Roots

Release : 2017/9/15

Genre : Alternative Rock / Post Hardcore

Samples : Youtube

Tracklist :

  1. Before Me
  2. Matter
  3. Indigo
  4. Off the Floor
  5. Curtains
  6. Solemn
  7. Arp  ★オススメ
  8. Fireflies
  9. Everything (All at Once)
  10. Half the World

英ロンドン発のオルタナティブ/ポスト・ハードコアバンド、Arcane Rootsによる2ndフル。

今から4年前にリリースされた1stフル『Blood & Chemistry』は、まずジャケットの美しさに目を惹かれた作品でした。夜の静謐な空間をバックに、様々な青の色調で描かれたオーガニックな命の輝きは、バンドの産声を彩るに相応しい神秘的な美しさを湛えていました。

『Blood & Chemistry』(2013)
ジャケットが良ければ奏でる音楽も新人離れしたもので、多彩な小ワザを絡ませつつ3ピースとは思えないほど分厚い音塊をぶつけてくるアンサンブルと、安っぽさを微塵も感じさせないヴォーカルの卓越したフレージングによって、1stから既に際立った存在でした。乱暴な例えですが、Museの艶かしい歌ゴコロにThe Fall of Troyの苛烈な演奏をブレンドしたとして、彼らはこれをゲテモノでなく崇高な芸術作品に昇華してしまう。これを才能と言わずに何と言いましょうか。

そして、前作から実に4年をかけて制作された本作『Melancholia Hymns』は、そんな彼らの才能が更なる高みへと到達したことを宣言する一枚。まず本作に至るまで、バンド内で大きな変化が二つあったことに触れておかねばなりません。一つはオリジナルメンバーでもあったドラマーDaryl Atkinsの脱退。これにはバンドも相当なショックを受けたようで、それまでニューアルバム用に一度完成していた楽曲を全て白紙に戻してしまうほどだったらしいです。しかし、後任のドラマーJack WrenchもDarylに負けない素晴らしいプレイを魅せてくれるのでご安心を。もう一つはフロントマンAndrew Groveのシンセサイザーへの本格挑戦。これは前者とは異なる明確な「正」の変化で、本作に新しい風を吹かせ、楽曲の幅を広げることに大きく貢献しています。また曲によっては打ち込みも大胆に導入するなど、本作のエレクトロミュージックへの接近は目を見張るものがあります。

荒々しいポスト・ハードコアとしての性格が前面に表れていた前作からうって変わって、本作はそのポスト・ハードコアすら一つの側面にしか過ぎない、とても多面的な作風となりました。しかし、ロック・ミュージックであることは確か。これは極めて「プログレッシブ」なロックアルバムだと思います。AnathemaやCaligula’s Horseの新作とも通じる、ジャンルの壁を積極的に越えようとする気概が無ければ作れないであろうアルバムです。

本作のサウンドから感じられるイメージは「光」。まるで教会音楽のように、清らかな音のベールがリスナーを優しく包み込んでくれます。しかし、本作のタイトルは『Melancholia Hymns』。バンドの紡ぎ出すメロディーはどこか物憂げで悲しく、少なくとも多幸感に満ちたものではありません。この力強く神々しいサウンドの裏側には、彼らの苦悩や葛藤、不安、恐怖といった負の感情が影を落としているのではないか。そう勘ぐらざるを得ません。本作は、とても人間的な作品だと思います。

個人的に特に気に入っている楽曲は、序盤の#2. Matter#3. Indigo、そして終盤の#7. Arp#8. Firefliesの4曲。「Matter」はゴリゴリの演奏を軸に、サビの爆発的な歌唱が心地良いキラーチューン。前作を聴いたリスナーでもすんなり受け入れられるでしょう。「Indigo」はAndrewの切なげな歌のフレーズが胸に響く、美しいミドルナンバー。音数こそ少ないものの、この曲のキモは銀盤です。「Arp」と「Fireflies」は本作でも特にエレクトロニックな意匠が凝らされた楽曲。どちらもAndrewの歌やコーラスがフォーカスされており、万人に届きそうなキャッチーさがあります。

「ポスト・ハードコア」は彼らのアイデンティティではありませんでした。彼らは音楽の可能性を追求する開拓者であり、自らの殻を破るためなら平気でリスクを負う「プログレッシブ」な男たちでした。前作からその予兆はありましたが、本作でそれが明確に確認出来てとても嬉しい。そしてその結果生み出されたのが紛れもない傑作なのだから、これ以上言うべきことはありません。ただ、これからも我が道を突き進んでいって欲しい。