Fractured / Lunatic Soul

Release : 2017/10/13

Genre : Electronic / Alternative Rock

Samples : Youtube

Tracklist :

  1. Blood on the Tightrope
  2. Anymore
  3. Crumbling Teeth and the Owl Eyes
  4. Red Light Escape
  5. Fractured
  6. A Thousand Shards of Heaven  ★オススメ
  7. Battlefield
  8. Moving On

ポーランド産プログレッシブ・ロックバンド、RiversideのフロントマンMariusz Dudaによるソロ・プロジェクト、Lunatic Soulの5thアルバム。前作に引き続きKscopeからのリリース。アートワークは前々作、前作も手がけたTravis Smithによるもの。

マルチ・インストゥルメンタリストであり、ソングライターであり、サウンドプログラミングや作品のプロデュースまでこなす…同じフィールドであればSteven Wilsonにも迫るような多才性を持つMariusz Dudaですが、そんな彼が自らフロントマンを務めるRiversideとは別に自らの「分身」として、己の内面世界を徹底的に分析し、暴露するために生み出されたのがこのLunatic Soulというプロジェクト。

Riversideでのモダンプログレッシブ・ロックやメタルのフォーマットからは離れ、映画音楽ジャズフォークエレクトロ・ミュージックに至るまで、実験的で多彩な音楽をLunatic Soulは披露します。しかし、多彩さとは裏腹に派手さや華やかさとは無縁であり、孤独や憂愁、悲観、苦労、痛みといったMariuszの消極的情念を顕にしたような、仄暗くコールドな作風。同時に低音重視の力強い音響や、ピアノやシンセ、アコースティックギターの流麗な旋律、そしてMariusz自身のヴォーカルワークによって、暗いだけでなく思索的・理知的な色付けがなされています。彼の作る作品は決して「キャッチー」と言えるものではないけれど、何度も繰り返し聴けるだけの強度を保証する事ができる、良質な音楽です。

さて本作『Fractured』ですが、前作『Walking on a Flashlight Beam』(2014)からサウンドプロダクションの方向性に大きな変化はありません。同じスタジオで、同じエンジニア、プロデューサーが携わり、同じレコード会社からのリリースですしね。しかし本作の方が、音響がより力強く、更なる広がりや深みを持たせているような気がします。また前作ではエレクトロ・ミュージックへの大胆な挑戦が取り沙汰されましたが、本作でもその取り組みは継続しています。大きな変化として挙げられるのは、サックス奏者の採用(#4. Red Light Escape、#6. A Thousand Shards of Heaven、#8. Moving Onで演奏)と、ヴォーカルを主軸に組み込んだソングライティングオーケストラ隊の本格導入の3点。どれもLunatic Soulの音楽性を損なわず、且つキャッチーに彩るような採用の仕方で、この改革によってリスナーとの間にそびえていた「感情移入への壁」が一気に取り払われたのではないかと思います。精巧に描き出されたMariuszの深遠な精神世界の中に、サックスのメロディアスでムーディな演奏が、生オーケストラによる壮麗できめ細やかな演奏が、そしてMariusz自身の柔らかな歌が、扉を開けて優しくリスナーの背中を押してくれるでしょう。

同時に、Riversideの音楽性との垣根もほぼ取り払われています。それはRiversideの最新作『Eye Of The Soundscape』(2016)との比較でも明らかで、「Riversideとの明確な差別化」という制約すらも打破したいという思いが表れているようです。こうしてあらゆる束縛から解放される事からスタートした新作は、前4作とは似て非なる趣と音楽性を携えた作品であり、今後の新章を飾るにふさわしい最高傑作に仕上がっています。

楽曲のうち特に気に入っているのは、重厚なシンセベースとエモーショナルなヴォーカル&コーラスワーク、美しいピアノの旋律がダイナミックに踊る#1. Blood on the Tightrope、Riversideのバラード曲で披露するようなメロウで哀愁深い歌唱と、それを彩るアトモスフェリックなギターサウンドと生オーケストラの音色が幻想的な情景を生む#3. Crumbling Teeth and the Owl Eyes、物悲しいベースフレーズを背に囁くような歌唱、とどめにアコースティックギターとサックスの波状攻撃で涙すること必至な#4. Red Light Escape、感情を消したような歌唱にダークで這うようなベースフレーズ、無機質で手数の多いドラムとパーカッション、そしてレトロなシンセサウンドが彩るサイバーパンクな雰囲気と虚無感が心地良い#5. Fractured、アコースティックギターとベース、オーケストラ隊をバックにMariuszのメロディアスな歌唱にフォーカスした前半部から、シンセとドラム、サックスを招き大団円の幕引きへと導く至高のバラード#6. A Thousand Shards of Heaven。どれも理知的な美しさが光る名曲と言って差し支えありません。

あらゆる制約を打ち破り生み出された本作は、どんなジャンルにも収容できない真にプログレッシブな作品。そして際立った完成度を備えています。Mariusz Duda=Lunatic Soul、引いてはRiversideの辿る未来は本作を聴く限り、光あるものになりそうです。