King Krule “The OOZ”
Release : 2017/10/13
Genre : Alternative Rock / R&B
Samples : Youtube
Tracklist :
- Biscuit Town
- The Locomotive
- Dum Surfer
- Slush Puppy
- Bermondsey Bosom (Left)
- Logos
- Sublunary
- Lonely Blue ★オススメ
- Cadet Limbo
- Emergency Blimp
- Czech One
- A Slide In (New Drugs)
- Vidual
- Bermondsey Bosom (Right)
- Half Man Half Shark
- The Cadet Leaps
- The Ooz
- Midnight 01 (Deep Sea Diver)
- La Lune
英ロンドンを拠点に活動する若き天才シンガーソングライター、Archy MarshallことKing Kruleの2ndフルアルバム。
弱冠19歳のとき、1stアルバム『6 Feet Beneath the Moon』(2013)でKing Krule名義でのデビューを果たして間もなく、英BBC主催の「サウンド・オブ・2013」ではSavagesやThe Weekndら今を輝く新鋭達と並びノミネートするなど、音楽シーンにこれ以上なく衝撃的な形で殴り込みをかけたArchy Marshall。R&B、ソウル、ジャズ、ブルース、そしてダブステップを無理やりロックのフォーマットに押し込み、年齢にそぐわない円熟味のあるバリトン・ボイスでぶっきらぼうに燻るそれは、刺激的な音楽を求める開拓的なリスナーにとってそれはセンセーショナルなものだったに違いありません。
2015年にはArchy Marshall名義で『A New Place 2 Drown』をリリースしています。彼の人生を彩るサウンド・トラックという役割を果たしたこの作品は『6 Feet Beneath the Moon』とは大きく毛色が異なり、ダウンテンポやアンビエント、ダブステップ、R&Bとしての色合いを濃くした非常にエクスペリメンタルな内容。まるで煙草から揺蕩う煙のように、儚く表れては融ける彼の声と電子音、灰色の情景。彼のバックボーンに改めて想いを馳せられる、退廃的で幻想的な作品でした。
個人的に本作『The OOZ』は、上記2作のハイブリッドだと思っています。『6 Feet Beneath the Moon』より内省的で、実験色の強い音楽性。しかしロックとしてのバイブスやキャッチーな歌メロも残されていて、それでいて上記2作を遥かに上回るクオリティー。『The OOZ』は今のArchy Marshallが生み出せる最高の集大成であり、歴史であり、そしてこれから歩むであろう黄金の路を照らす光でもあります。
ダウナーで退廃的な色合いの濃い本作ですが、バックを固める製作陣は非常にゴージャス。King Krule自身ヴォーカル以外にもギター、ベース、ドラム、キーボード等の演奏者、そしてプロデューサー兼エンジニアの一人としてもクレジットされている他、ギター、ベース、ドラムにはそれぞれ専任者が、また共同プロデューサーであるDilip HarrisとAndy Ramsayもパーカッションをはじめ様々な形で演奏に参加しています。更にサックス奏者やピアニスト、ゲストヴォーカリスト、エンジニアらも含めると参加者は総勢20名近く。ともすれば混沌としかねない大所帯ですが、King Kruleの卓越したソングライティングによって美しく階層化され、更に名手Barry Grintによる卓越したマスタリングによって良い意味で人数の多さを感じさせない、スタイリッシュで引き締まった音楽に昇華されています。まさに歴史的名盤たるや、この職人芸があってこそのもの。
歌詞は相変わらず破滅的で、ぶっきらぼうで、なげやりで、退廃的。前編を通してブルーな感情が渦巻いているけど、でも不思議と絶望しない。悲観的なのだけど、どこか地に足ついた意志の強さが感じ取れます。ブルーだけど後ろ向きじゃない、彼の生み出すこの不思議な感情は凡人として日々摩耗するいち人間として、非常に魅力的に映ります。
冒頭の#1. Biscuit Town、#2. The Locomotiveはヒップホップの息吹を感じさせるドープな音響処理で、心地良い退廃感が流れ込みます。このようにアルバム全体を通して深くダビーな音響が支配し、ジャズやソウル、R&B由来のムーディでコンテンポラリーな演奏によって終始酩酊感がくすぐられます(この心地よさは睡眠導入にも使えるかも…)。個人的なハイライト・ナンバーである#8. Lonely Blueもそういった類の楽曲です。一方、#3. Dum Surferや#13. Vidual、#15. Half Man Half Sharkは、ゴージャスなアンサンブルによるリズムの洪水が心地良いアップテンポなナンバー。この3曲が良いアクセントになって、ダウナーな曲が大半を占めるアルバムの流れがぐっと引き締まったものになっています。19曲と楽曲数は多いものの、それぞれが個性化されているため長さを一切感じることなく聴き通す事が出来るでしょう。
様々な音楽メディアで高評価を受けているのも納得の傑作。音楽好きならこの美しき「ブルー・レコード」を見逃すべきではありません。
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