The National “Sleep Well Beast”

Release : 2017/9/8

Genre : Alternative / Indie Rock

Samples : Youtube

Tracklist :

  1. Nobody Else Will Be There
  2. Day I Die
  3. Walk It Back
  4. The System Only Dreams in Total Darkness  ★オススメ
  5. Born to Beg
  6. Turtleneck
  7. Empire Line
  8. I’ll Still Destroy You
  9. Guilty Party
  10. Carin at the Liquor Store
  11. Dark Side of the Gym
  12. Sleep Well Beast

米オハイオ州の都市シンシナティ出身のオルタナティブ/インディー・ロックバンド、The Nationalの7thアルバム。

90年代前半に伝説を遺したNirvana、そして90年代後半~00年代にかけて本格的に時代を築いたRadiohead、オルタナティブ・ロックに限らずどんなシーンでもそれを率いる騎手とされるレジェンドがいました。では10年代も後半に差し掛かり、新たなオルタナティブ・ロックの騎手として相応しいバンドは何でしょうか?去年素晴らしいアルバムをリリースしたRadioheadが続投するのでしょうか?いや、個人的には今回紹介するThe Nationalこそ目下最有力候補であると睨んでいます。本作Sleep Well Beastでいよいよその地位へ手をかけたのだと。

The Nationalの結成は意外にも古く、1999年に遡ります。ヴォーカルとしてフロントマンを務めるMatt Berningerに、ギター兼キーボーディストのAaron Dessner、そしてベーシストのScott DevendorfとドラマーのBryan Devendorf兄弟の4人によって立ち上がりました。バンドはAaron Dessnerと彼の双子の兄弟Bryce Dessnerによって設立された”Brassland Records”から、セルフタイトルのデビューアルバム『The National』(2001)を発表します。Bryce Dessnerが次作『Sad Songs for Dirty Lovers』(2003)からギタリストとして正式参加し、現在の5人組へと姿を変えました。

レーベルを”Beggars Banquet”に移してからリリースされた『Alligator』(2005)から、彼らは劇的な成功を収めていきます。続く『Boxer』(2007)は『Alligator』の3倍以上、『Sad Songs for Dirty Lovers』の10倍近くの全米売上を成し遂げました(wikipediaより)。世界中でその名が知られるようになったのは、おそらくこの頃からでしょう。それから彼らは一度も失速することなくアルバム毎にクオリティーを上げ続け、実力派として最大級の信頼を勝ち取ってきました。

私が初めて彼らの事を知ったのは『Boxer』(2007)で、その後ろから2番目の曲”Ada”を聴いてハートを打ち抜かれてから、彼らの事を追いかけるようになりました。彼らの音楽には非常に断片的ではありますが、ロックの作法だけでなく、フォークやクラシック、シューゲイザー、エレクトロ・ミュージック等の要素が紛れ込んでいて、それが彼らの音楽をオンリーワンのものにしています。そしてフロントマンMatt Berningerが色気たっぷりのバリトンボイスでエモーショナルな詩を歌い、リスナーの心を揺らし、癒します。

このアルバムを紹介するうえで、アメリカの前大統領であるオバマと現大統領のトランプについて外すことは出来ないでしょう。The Nationalは2010年にオバマの支援集会に参加し、12年には再選を目指すオバマ大統領を支援するため、民主党キャンペーン集会のオープニング・パフォーマンスを行いました。明らかに、彼らはオバマを支持していました。前作『Trouble Will Find Me』(2013)リリース時は未だオバマ政権でした。そして今作は、トランプ政権に移って最初の作品。フロントマンのMatt Berningerは、トランプ政権に移行したこの状況を「悪夢のようだ」インタビューで答えています。

本作はそのサウンド、歌詞ともに非常にダークなものとなっています。希望を打ち砕かれ、先の見えない未来に絶望する悲痛な叫びが耳元まで迫ってくるよう。本作のテーマはアルバムや先行シングルのタイトルにも冠された「眠り」「夢」。私達人間はなぜ夢を見るのか。それは「不要な記憶を整理するためだ」という説を聞いたことがあります。私たちはトラウマに犯されたとき「眠って忘れようとする」傾向があります。本作はもしかすると、現状に絶望している同胞に対して、今は少しシャットダウンし休むべき時だと宥める作品なのかもしれません。ダークであるのと同じくらい「優しい」作品だと思います。

まるで頭を撫でながら優しく子守唄を投げかけるような歌が印象的な#1. Nobody Else Will Be There、「僕が死んだ日」について敢えてアッパーに、生き生きと奏でてみせる#2. Day I Die、微睡むようなバッキングを背に浮かび上がる、生々しくエッジーなギターリフレインと絞り出すような歌が最高に痛快な#4. The System Only Dreams in Total Darkness、ガレージロック風のジャリついた荒々しいアンサンブルとグルーヴが心地よい#6. Turtleneck、打ち込み風のドラムとベルのように優しく木霊する銀盤が優しくマッサージしてくれる#7. Empire Line、情感たっぷりの歌と交互に登場する余りに切なく美しいギターリフレインが涙を誘う#9. Guilty Party、哀愁に塗れた歌と銀盤の音色が黄昏の境地へと導く#10. Carin at the Liquor Storeなど素晴らしい出来の楽曲がずらりと並びます。夢心地のようなアンビエント風の音響に対して、アンサンブルの輪郭は驚く程くっきりとしていて、それが彼ららしい淡々としたものでも凄まじい臨場感を与えてくれます。エレクトロ・ミュージック的な要素が多いのもテーマを考えれば納得の採用で、しかも使い方が驚く程さりげなくて上手い。聴けば聴くほど驚きと感動をもたらしてくれる作品です。

紛れもなく今年最高のロック・アルバムに数えられるべき一枚。表面的にはダークな作風ですが、暗い現実を生きるリスナーにこそ優しい灯火となってくれるでしょう。そして日本ではその実力に対して知名度が釣り合っていないと思うので、彼らの音楽を聴いた事のない方は本作を機に是非触れてみて欲しい。これほどに美しいロックの名作は中々お目にかかれるものじゃありません。