Daniel Cavanagh “Monochrome”

Release : 2017/10/13

Genre : Art Rock / Progressive Rock

Samples : Youtube

Tracklist :

  1. The Exorcist
  2. This Music
  3. Soho
  4. The Silent Flight of the Raven Winged Hours
  5. Dawn
  6. Oceans of Time  ★オススメ
  7. Some Dreams Come True

英国産オルタナティブ/プログレッシブ・ロックバンドAnathemaのギタリスト兼ソングライター、Daniel Cavanaghによるソロ・アルバム。

世界で最も美しいメロディーを紡ぎ出す集団として私の心に刻み込まれているバンド、Anathema。今年リリースされたニューアルバム『The Optimist』は、2017年における Progressive Music Awardsの”アルバム・オブ・ザ・イヤー”…プログレッシブ・ロックシーンにおける最大級の賛辞を欲しいままにしました。そしてバンドにおけるメロディーの源泉とも言える存在がこの男、Daniel Cavanagh。Anathemaではメイン・ソングライターの一角を務め、自らのギターで極彩のメロディーを生み出してきた彼は、元ベーシストが結成したAntimatterや、自ら率いるアコースティック・ロックバンドLeafbladeでも等しく活躍の軌跡を残してきました。ソロ名義ではアコースティック形式でのソロライブ敢行や、カバー曲によるアルバムをリリースした事があるようですが、オリジナルトラックのみによるアルバムリリースは無く、つまり本作が彼というミュージシャンによる真のソロ・デビューアルバムという事になります。

本作を聴いた上で明らかにしなければならないのは、相変わらず美麗なメロディーを美辞麗句によって飾り立てることではなく(そんな事は分かりきっている事ですしね)、「なぜソロアルバムを作ったのか?」これに尽きる。それを推測することによって初めて、本作を本当の芯まで堪能する事に繋がるのだと思うから。

結論から言えば、それは「母親」であり「家族」なのだと思います。1998年、Anathemaが4thアルバム『Alternative 4』をリリースした直後、Danielは母親が亡くなるという悲劇に見舞われました。翌年にリリースされた『Judgement』に収録された名曲”One Last Goodbye”は亡き母親へ愛を語りかける曲であり、『A Natural Disaster』(2003)収録の”Are You There?”は母を失った喪失感と悲しみを歌った曲でした。一方、『Distant Satellites』(2014)では自らの娘アリエルへの愛について歌った“Ariel”があります。

ソングライターであるDanielは上記のように自らの家族をテーマとした曲をいくつか作ってきたワケですが、集合体としてのバンドである以上、自らの事柄だけをテーマにする事は出来なかったのではないでしょうか?そこで、ソロ名義での作品によって母親や娘を含む自らのパーソナルな部分を掘り下げるに至ったと。実際に本作からは特に母親への思いが色濃く伝わってくるし、そんな経緯が個人的にもしっくりくるのです。

内容については敢えて語る必要も無いほどに、彼特有の低音が目立つムーディな歌と、ギターの美麗なフレージングが映える快作。Anathemaが『Hindsight』(2008)で引き算の美学を示してみせたように、Daniel Cavanaghのそれもできる限り装飾を控えたアンサンブルで、しかし歌とギターの音色は夜空の綺羅星のような軌跡を描く、奥ゆかしくも鮮烈な作風。なお楽器類はゲスト参加によるヴァイオリンを除き全てDanielの手によるもので、マルチ演奏者としての才能もさりげなく披露されています。

#1. The Exorcist~#3. Sohoは歌モノで、#4. The Silent Flight of the Raven Winged Hours~#7. Some Dreams Come Trueはインスト寄りの内容。特に#2. と#3. そして#6. では元The Gatheringのヴォーカリストであり盟友のAnneke van Giersbergenが参加。爽やかで艶やかな歌声がモノクロの景色に黄金色の残照を漂わせます。#4. と#5. #7. ではアコースティックライブ盤『A Sort of Homecoming』の舞台で出会ったというヴァイオリニストAnna Phoebeが深遠なメロディーを奏でておりこちらも必聴です。またクライマックスナンバー#7. のラストでは、Danielの娘Arielの幸せそうな肉声が収められています。きっと今の彼は、母を失った悲しみを乗り越えて幸福を受け入れているのだと…強く信じさせてくれるような結末でアルバムの幕は閉じられます。

Anathema側が欲しがった楽曲もあるそうですが(こちらのインタビュー記事参照)、しかし結局は本作の方に収録された事実も含めて、Danielにとって本作が如何に意義深い作品であるかという事は疑いの余地がありません。そして私たちにとっても…内省し、自らの深部へ潜っていく事が好きな人にとっては、これ以上無いナイトタイム・ミュージックとなる事でしょう。再生ボタンを押してから最後の一秒に至るまで、あなたの耳を釘付けにしてくれるはずです。