Kamasi Washington “Harmony Of Difference”

Release : 2017/9/22

Genre : Jazz

Samples : Youtube

  1. Desire
  2. Humility
  3. Knowledge
  4. Perspective
  5. Integrity
  6. Truth  ★オススメ

米カリフォルニア州ロサンゼルス出身のジャズ・サックス奏者/コンポーザー/プロデューサーこと、Kamasi Washingtonによる最新ミニ・アルバム。

カリフォルニア大学ロサンゼルス校で Kenny BurrellやBilly Higgins、Gerald Wilsonといった重鎮達から学んだKamasi Washingtonは、同じカリフォルニア州出身のKendrick Lamarによる歴史的名作『To Pimp a Butterfly』(2015)へのサックス提供、そして同年に自らの名前でリリースした『The Epic』 (2015)の素晴らしいクオリティーでもって、その名声を一気に世界へ轟かせたように思います。Wayne Shorter、Herbie Hancockといったジャズの歴史的名人との共演をこなす一方で、Snoop DoggやFlying Lotusといったヒップホップ界隈からも熱烈なラブコールを受けたりと、今や飛ぶ鳥を落とす勢いの売れっ子状態です。

果たして彼の身は持つのだろうか…という勝手な心配をよそに、早くも新作を届けてくれました。その名も『Harmony Of Difference』。つまり、異なるもの同士の調和、です。本作はなんでも「対位法」という方法を用いて作曲されたとのことですが、wikipedia先生によると「複数の旋律を、それぞれの独立性を保ちつつ互いに調和させて重ね合わせる技法、ないし音楽理論」との事(しかもその下にもうんと長い解説付き)。ろくに楽器も触ったことのない私には難し過ぎる内容でございました。けれど、”Difference”が”複数の(異なる)旋律”だとすれば、アルバムタイトルの意味するところは自然と「対位法」そのものになりますね。

アルバムタイトルも興味深ければ、曲のタイトルもそうです。どれも単語一つでシンプルですね。Desire(欲望)、Humility(謙虚)、Knowledge(知識)、Perspective(展望)、Integrity(統合)、Truth(真実)。思うにこれは、ヒトが「真実」を手にするための過程です。ある事柄について真実を知りたいとき、まず私たちはその「欲望」に駆られて、がむしゃらに周辺の情報をかき集めることでしょう。中には、自分にとって不都合であったり気に入らない情報もあるに違いありません。しかし、湧き上がる偏見を「謙虚」さでもって制したとき、それは「知識」となるでしょう。そして知識を通じて先を見通す「展望」が開け、それによってバラバラの知識は「統合」され、間もなく私たちは「真実」に至るでしょう、といった具合に。そしてアルバムの中身も、Truth(真実)に収斂していく形で進行することになります。

ここまで読んでいただいたなら容易にご想像頂けるとおり、このアルバムにおける感動は最終曲”Truth”で真に花開くことになります。そのためには、当然1曲目の”Desire”から必ず順番に聴いていく必要があります。”Truth”より前の楽曲…それ単体でも素晴らしい完成度を誇る楽曲たちですが、そこで奏でられる異なる演奏・メロディー、それぞれが”Truth”において手足となり、有機的な繋がりによって人体のごとく巨大かつ精密な構造物を形作っていく…その全体像が立ち現れた時の感動ときたら!もし私たちが日常の中で”真実”へ至ったとしたら、きっとこのような感動的喜びを味わうに違いない、そう確信させてくれる程の説得力を備えた演奏劇が繰り広げられます。

その演奏のスゴさについては、今更何か付け足すことがありましょうか?前作から引き続きTerrace Martin、Thundercat、Cameron Graves、Ryan Porterといった気鋭揃いの「ザ・ネクスト・ステップ」メンバーをメインに据え、素人耳にも凄まじさがビシビシ伝わる演奏を披露してくれます。そしてレコーディング・エンジニアにはVampire Weekendの『Modern Vampires Of The City』を手がけた実績を持つMichael Harris、マスタリング・エンジニアにはアングラ系ヒップホップ/エレクトロ・ミュージックを手がけてきたKevin Mooなる人物が担当しています。前作よりも更にクリア且つ広大な音場で、まるで目の前に浮かび上がってくるようなライブ感のあるサウンドを楽しませてくれます。

『The Epic』の巨大な抑揚と大らかな感動をぐっと凝縮したような、エネルギッシュで、喜びと生命力に溢れた作品です。『The Epic』は私の未熟さから、咀嚼しその凄さを実感するまで1年近くかかってしまいましたが、その上で今、このミニアルバムの凄まじさをリアルタイムで実感できた事をとても嬉しく思います。決してミニアルバムだからと侮ってはいけませんよ。傑作だなんて形容すら陳腐に感じてしまう、今年絶対に聴くべきアルバムの一枚です。