GoGo Penguin “A Humdrum Star”
Country : UK
Release : 2018/2/9
Label : Blue Note Records
Genre : Jazz
Samples : Youtube
Tracklist :
- Prayer
- Raven
- Bardo
- A Hundred Moons
- Strid
- Transient State
- Return To Text ★オススメ
- Reactor
- Window
最古のジャズ専門レーベル<Blue Note>からめでたくメジャーデビューを果たした2年前、世界への果たし状としてリリースされた『Man Made Object』(2016)。それは私のような「非ジャズリスナー」をも巻き込む巨大な狼煙となりました。自分の音楽的嗜好から、私の周囲にはジャズよりもプログレ・ポストロック・エレクトロニカ・マスロックなどを好むリスナーが多かったのですが、彼らの多くもまたGoGo Penguinという若きジャズバンドの虜になったのです。何故でしょうか。それはGoGo Penguinもまた上記のようなジャンルに通ずる音楽を愛好し、自らが奏でる音楽に反映しているからに違いありません。
「アコースティック楽器でエレクトロ・ミュージックを表現する」事を信念としている彼ら。実際にその作曲プロセスは多くの場合シーケンスソフトによって作成されたエレクトロ・チューンからスタートし、それを如何にアコースティック楽器で再現するか、という方法で試行錯誤しているといいます。そうすることで生まれた音楽は私たちがよく耳にする「ジャズ」よりも更に深い音響で、よりメロディアスで、ダンサブルですらあります。聴こえてくるそれはもはや「ジャズの形をした何か」であり、私たちの内にある斬新なものを求める渇望、想像力を大いに刺激してくれます。再び上述した信念を見ていただき、そこに「ジャズ」という言葉が無いことに注目してください。彼らにとってジャズとは目的ではなく手段であり、自分たちがその時々で表現したい、新しさを感じさせる音楽を創造しているだけなのです。
さて前置きはこの辺にしておいて、本作『A Humdrum Star』について語りたいと思います。ひと息で言えば、先ほど述べた彼らの「アコースティック楽器でエレクトロ・ミュージックを表現する」というスタイルを更に伸長した作品。前作よりも更に深い残響感、執拗なほど人っぽさを排除したドラム、リズムとメロディー、器用に立ち位置を変え縦横無尽な演奏を披露するベース、そして単音の響きに重きが置かれ、緩やか且つ広く抑揚をとったピアノの旋律。そこから生み出されるのは過去最高にダークで、アトモスフェリックな作風。これはアンビエントだ。ジャズでアンビエントを表現したアルバム、それが本作だと思います。
ジャズに少しでも免疫があって、アンビエントという音楽に美しさを見出したことのあるリスナーにとっては、これ以上なく美しい音楽として映るでしょう。残響処理のもたらす広大な暗黒空間をキャンバスに見立て、立体的な演奏とメランコリックなメロディーで光のアートを作り出す。まさにジャケットアートのように神秘的な色彩をもたらす音楽世界は息を呑むほど美しい。たまにカットインされるパーカッションのトライバルな旋律も、その神秘性に拍車をかけていてグッドです。
彼らのような挑戦者としての音楽を体現するジャズはとても好ましく感じます。懐古か挑戦か、歴史のあるジャンルだからこそ挑戦者たるのはとても難しい筈です。本作は彼らのチャレンジ精神が過去最大級に発揮された意欲作であり、同時に傑作だと思います。ジャズで宇宙をも幻視させてみせる、彼らの飽くなき表現欲求と開拓精神に多大な敬意と祝福を。
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