orchid mantis “kulla sunset”

Country : USA

Release : 2018/3/12

Label : Z Tapes

Genre : Indie pop / Bedroom pop

Samples : bandacamp

Tracklist :

  1. sunlight
  2. graveyards & lost dogs
  3. pull
  4. miracle strip
  5. still life
  6. kulla
  7. sunset twice
  8. coming down  ★オススメ
  9. crystal lake
  10. before the sun
  11. stye sky
  12. tired in the morning
  13. empty palms

私たちが昔日の思い出に耽るとき、その記憶はボヤけていて、コラージュのように継ぎ接ぎの映像になっているのではないでしょうか。まるで古いビデオテープをブラウン管テレビに繋げた時のように、ノイズが紛れていて、揺れや色ずれがあって、時には映像自体が潰れていて…。そんな愛すべき古ぼけた記憶を、米アトランタ出身のorchid mantisことThomas Howardがアルバムとして綴ったのが本作『kulla sunset』。Kullaというのはスウェーデンの街の名前らしく、本作に収録されているのはそのKullaにある祖父母の別荘で過ごした子供時代の思い出。太陽が遅くまで照り輝き、高く茂った草が特徴的だったそうな。今でもたまに訪れるほど、彼にとっては思い出深い場所だそうです。

私たちが古き良き時代の記憶をサルベージするのと同じように、いくつかの欠落を経ながらKullaでの記憶がコラージュされていきます。本作の素晴らしい点は、その”クリアではない映像”がそのままサウンドとなっている点。ボヤけていて、歪んでいて、ところどころノイズが走るサウンドスケープには、透き通るような美しさはありません。しかし、まさにそれがリアリティーとなって、また圧倒的に美しく哀愁深いメロディーラインによって、説得力を生み出しています。追憶というテーマにローファイなサウンドは鉄板ですが、本作は特に上手くやってのけている例だと思います。

Cigarettes After Sexのようなベッドルーム・ポップを軸に、残響処理を更にたっぷりと効かせた揺らめきのサウンドスケープ。淡いギターリフレインと、フィルター越しのように聴こえるドラムを主役に、酩酊感をもたらす演奏が夢現の世界へと導いてくれます。もたらされるのは単なる幸福感ではなく、もっと人として根源的な部分が刺激されて湧き出るような”癒し”。私たちが子供時代の思い出にアクセスした時に得られる、幸福感や充実感、喪失感、哀愁などの入り混じったあのえも言えぬ感情が喚起されます。

どの曲もハイクオリティーで落ち込む場面がなく、ゆったりとした抑揚で最後まで楽しませてくれます。この世知辛い世の中に癒しの音楽を求めるリスナーには、うってつけのセラピーとなるでしょう。