Sons Of Kemet “Your Queen Is a Reptile”
Country : UK
Release : 2018/3/30
Label : Impulse! Records
Samples : Youtube
Tracklist :
- My Queen Is Ada Eastman
- My Queen Is Mamie Phipps Clark
- My Queen Is Harriet Tubman ★オススメ
- My Queen Is Anna Julia Cooper
- My Queen Is Angela Davis
- My Queen Is Nanny of the Maroons
- My Queen Is Yaa Asantewaa
- My Queen Is Albertina Sisulu
- My Queen Is Doreen Lawrence
英国の才気溢れるサックス、クラリネット奏者兼コンポーザー、Shabaka Hutchings率いるSons Of Kemetによる3作目。地元のNaim Recordsから、アメリカの名門ジャズ・レーベルImpulse! Recordsに籍を移して初のアルバムとなります。
初めて彼らの事を知ったのが前作『Lest We Forget What We Came Here to Do』(2015)の時で、bandcampで試聴したのがきっかけでした。千差万別、玉石混交のアーティストの中で、彼らの音楽は特に異彩を放っていたのを覚えています。私が抱いていたジャズへのイメージとは全く異なるテナーサックス、チューバ、ツインドラムという編成。そこから奏でられる、アフロビートやファンク、ラテン、レゲエ、サンバなどを通過したジャズ…のような何か。混乱したまま音楽を聴いていると、いつしか身体全体がリズムに乗って揺れている事に気づきました。いつしか「ジャズを聴いている」事すら忘れ、ダンスミュージックに身を委ねているような気分になっていたのです。
本作も前作から作風に大きな変化はないものの、楽曲は格段にキャッチーになっています。チューバとドラムはこれまで以上に激しくリズムを波打たせ、それをHutchingsのサックスが華麗に乗りこなしながら、よりメロディアスでパワフルな音色を鳴らす。時折登場するゲストヴォーカルは荒々しく野性的に歌い、音楽のボルテージを瞬時に引き上げる。まるで曲芸のような即興性と中毒性の強い演奏で、グルーヴとカタルシスの渦に引きずり込んでいきます。
また、本作ではロンドンを拠点に活動する多数のミュージシャンがゲスト参加しています。#1ではBenin City、HUGH、electro dub outfit LVなどで知られるJoshua Idehenがヴォーカルとして、#2では大傑作「Jungle Revolution」で文字通りジャングル界に革命を起こした、Rebel MCことCongo Nattyがヴォーカルで、#3では気鋭のドラマーEddie HickとMoses Boyd、#4ではアヴァンギャルド・ジャズバンドPolar Bearに所属するサックス奏者Pete Wareham、#7では女性サックス奏者兼コンポーザーNubya Garcia、クライマックスの#9ではドラマーMaxwell Hallettと再びJoshua Idehenが登場。彼らゲストのおかげで、ただでさえワイルド&トライバルな音像が豪華なスケールアップを果たしています。
また本作は”君主制の批判”というテーマのもと制作されています。「君主制によって遺伝的に”選ばれた”女王を盲目的に信じるのではなく、信ずるに足る、自分だけの女王を”見つけろ”」というメッセージが込められているのです。子供時代にイギリスから東カリブ海の島国へ移り、そして戻ってきたという過去を持つHutchingsだからこそ、見えるイギリスの不自然さというものがあるのでしょう。Hutchingsはインストラクターとなり、まず自らの「女王」を曲名にして啓蒙を訴えかけます。1曲目のAda Eastmanは自らの祖母。2曲目のMamie Phipps Clarkは黒人の子供の自己意識を研究したアメリカの社会心理学者、3曲目のHarriet Tubmanは著名な奴隷解放運動家、4曲目のAnna Julia Cooperはアフリカ系の作家/学者で黒人解放運動家、5曲目のAngela Davisは60年代にブラックパンサー党と協力関係にあった政治活動家、6曲目のNanny of the Maroonsはジャマイカの英雄として語られる女傑、7曲目のYaa Asantewaaは現在ガーナの一部であるアシャンティ帝国のエジス村の女王、8曲目のAlbertina Sisuluは南アフリカの反アパルトヘイト活動家、9曲目のDoreen Lawrenceはイギリスのジャマイカ人運動家、といった具合に(殆どがwiki調べです、間違いがあったらすみません)。それにしても『Your Queen Is a Reptile』とは大胆で、効果的なネーミングだ。お前の女王は偽物だ、か…。
彼の熱いメッセージがそのまま具現化したかのような、グツグツと煮えたぎった演奏が活力を与えてくれます。単純に、傑作だった前作よりも強力な作品だと思うのです。またここ最近話題になっている「UKジャズ・シーン」の底知れない潜在性を垣間見た気がします。
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