Liturgy “H.A.Q.Q.”

Country : USA

Release : 2019/11/12

Label : YLYLCYN

Genre : Experimental / Avant-garde / Black Metal

Sample : bandcamp

Tracklist : 

  1. HAJJ
  2. EXACO I
  3. VIRGINITY
  4. PASAQALIA  ★オススメ
  5. EXACO II
  6. GOD OF LOVE
  7. EXACO III
  8. HAQQ
  9. . . . .

ニューヨーク市ブルックリン区出身のアヴァンギャルド・ブラックメタルバンド、Liturgyの4thフルアルバム。

もともとHunter Hunt-HendrixによるソロプロジェクトであったLiturgyは、2009年の1st EP『Immortal Life』の後、今の4ピースバンドの体制へ移行しました。翌年に1stフル『Renihilation』を、そしてThrill Jockeyと契約を結んでから2011年に2ndフル『Aesthethica』をリリース。その後バンドメンバーの交代など紆余曲折ありましたが、2015年には3rdフル『The Ark Work』をリリースしています。その音楽性はブラックメタルを拠点としながらマスロックやプログレッシブメタル、ドゥーム/ストーナーロック、サイケ、ノイズを通過し、クラシックや雅楽にもアクセスする極めてアヴァンギャルドなもの。ブラストビートを織り交ぜる超速のドラム、ハイトーンのトレモロリフを連発するギター、ヒステリックに慟哭するヴォーカルと言った特有の要素が辛うじてブラックメタルの範疇に留めています。しかしプリミティブなブラックメタルとは程遠く、悪魔崇拝に根差した邪悪な情景にも依拠せず、むしろクラシックからの影響もあり神々しさすら感じさせる音像。音楽と芸術、思想を繋げる新しい哲学体系を常に構想するHunter Hunt-Hendrixが生み出す啓蒙の灯は、私たちに想像外の刺激を届けてくれます。

前作『The Ark Work』は彼の余りある知性が大爆発を起こした作品でした。あまりの前衛性に従来のファンほど拒否反応を起こしかねず、そうでなくとも「メタルバンドLiturgy」と知って聴けばまず理解が追い付かない内容。ギターのディストーションは殆ど消え去り、代わりにホーンセクションが異様な程に主張し始め、ドラムは奇妙に音圧を抑えられ、ヴォーカルは感情を喪ったかのようにボソボソとつぶやき続けている。ヒップホップやトリップホップの面影すら薄々と感じられるかの作品にはそれまでの過激なメタルの面影が失われ、まるで知らない宗教団体の催事に迷い込んだかのような余りにも不気味で不可思議な体験が待ち構えています。彼らのディスコグラフィの中で最もアヴァンギャルド、そして最も引力の強い作品です。根底には抗えない中毒性が満ちていますが、それを享受するには少なくともメタラーとしての色眼鏡を外す必要がありました。当然、賛否両論生み、世紀の迷盤、あるいは駄作とみなすリスナーもいたようです。

ヘヴィメタルの樹から生み出された前衛音楽の極地『The Ark Work』に続き、4年ぶりにリリースされたのが本作『H.A.Q.Q.』。正直、恐ろしさ半分で手に入れたのですがそれは全くの杞憂でした。本作、メタルしております。言ってしまえばそれだけなのですが、やっぱりLiturgyにはメタルバンドでいて欲しかったので、この変化は歓迎。では前作がないがしろにされているかと言えばそういう訳ではなく、表現の幅は前々作『Aesthethica』とは比較にならない程広がっています。ピアノやハープ、鉄琴、1曲目では龍笛(りゅうてき)と篳篥(ひちりき)という雅楽で用いられる楽器まで駆使し、妖怪じみた不気味なコーラス、奇妙なリズムとフレーズをループするバンドアンサンブルが組み合わさり、苛烈なアヴァンギャルド・メタルとクラシカルで幻想的なインタールード”EXACO I~III”が交互に展開する本作は、嘗ての作品の中で最も爽快で劇的。全体に薄いホワイトノイズの膜が張られたようなサウンドスケープですが音質は良く、神秘性を高めるための絶妙な采配に感じられます。メタルナンバーの中では#4. “PASAQALIA”がずば抜けていて、2種類の鉄琴と壮麗なストリングス、そしてDjent顔負けの複雑なリフ刻みが完璧に配合された新感覚のプログレッシブ・ブラックメタル。雅楽の笛と奇妙なコーラスのヴェールを纏いながら、激烈なブラストビートとトレモロリフで本作がブラックメタル・オリエンテッドである事を主張する#1. HAJJ、激しく疾駆する抒情的なトレモロリフと幻想的な鉄琴の音色がコラボレーションした、前々作を踏襲したアグレッシブナンバー#6. “GOD OF LOVE”、ハイトーンの分厚いギターサウンドと随所にカットインするノイズで機械仕掛けの情景を演出する#8. HAQQと、どの曲も非常に完成度が高く聴き応えがあります。

『Aesthethica』に続くアヴァンギャルド・メタルの傑作。『The Ark Work』に期待を裏切られた方にもそうでない方にも勧められる絶妙なバランス感のアルバムです。